腎臓の再生医療は、世界的に重要なテーマ
- 日本における透析患者は、高齢化や糖尿病の蔓延により現在33万人まで増加
- 人口あたりの患者数は世界一
- 透析患者は食事や生活の制限を強いられ著しいQOL(生活の質)が低下
- 国民医療費約40兆円のうち、約1.5兆円(一人当たり年間約500万円超)が人工透析
- 途上国では、高額な透析が受けられず、200万人以上の人々が腎不全で亡くなる
人工透析にかかる莫大な国民医療費
近年、国民医療費の削減は、必須の課題となっており、費用対効果の観点からも政府としても積極的に取り組みたいテーマの一つとしています。
高齢者だけでなく急性腎不全による若者の透析も
透析になった要因の多くは、糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎などが占めます。しかしながら、若者においても人工透析が必要となるケースも少なくありません。
- 先天的な腎臓病を持つ子供
- 急性腎不全やSLE(全身性エリテマトーデス)を発症
このような若年患者腎移植を受けるか新たな治療が開発されない限り、生涯にわたり透析治療を受け続けなければなりません。
4〜5時間、週3回程度の人工透析を受け続けながら、学校に通い、就職活動を行い、仕事をすることは、とてもハードなことだと思われます。
日本では、世界に先駆けて腎臓の再生医療が進む
10年以内に患者さんへの応用を開始したい
東京慈恵会医科大学附属病院 診療部長横尾 隆 先生のコメントです。
ここまで来たからには、さまざまなご批判を受けることも覚悟のうえで、治療を待つ世界の患者さんへと、再生腎臓を用いた治療を届けるべく踏み出したいと考えています。
10年以内、可能であればそれよりも前倒しで、実際の患者さんに対する応用をスタートさせたいと考えています。
(引用元:東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科 主任教授 東京慈恵会医科大学附属病院 診療部長横尾 隆 先生 2018 年04 月10 日メディカルノート)
治療適用は末期腎不全患者を想定
今回の研究における治療の適応は、両腎の機能が廃絶した末期腎不全の患者を想定しています。
逆にいえば、本来の10分の1でもご自身の腎機能が残っているようであれば、治療対象とはならないようです。
腎臓の再生に必要な3つのステップが完成!(2017年11月)
ここからは、
- 2017年11月23日プレスリリース国立研究開発法人 日本医療研究開発機構「ネフロン前駆細胞から腎臓再生成功 臨床応用に向けた最終段階へ」
- Nature Communications電子版(日本時間2017年11月23日19時)
を参考に、最先端の腎臓再生医療について、分かりやすく解説したいと思います。
腎臓の再生に必要な3つのステップが完成!
- 【完成】患者由来のiPS細胞からネフロン前駆細胞(腎臓の芽)を作る:日本では、iPS細胞研究が進んでおり、多くの研究者が効果的な方法を編み出しています。
- 【今回2017年成功】ネフロン前駆細胞から尿を作る臓器を体内に作る:ヒトの骨髄由来幹細胞とラットの胎仔を用いて、ラットの体内で尿を産生するヒト細胞由来の腎臓を作ることに成功しました(図1、2参照)
- 【2015年完成】尿を体外に排泄させる経路を作る
図1
図2
(図1、2ともに2017年11月23日プレスリリース国立研究開発法人 日本医療研究開発機構「ネフロン前駆細胞から腎臓再生成功 臨床応用に向けた最終段階へ」より引用)
今後の見通し
ステップ2が成功したことにより、腎臓の再生に必要とされる3つのステップ全てが完成しました。
ただ、今回の成功はラットとマウスでの実験に基づくため、患者に適用するためには、これらの3つのステップをすべてヒト環境下で完遂する必要があります。
すなわち、ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞でも証明する必要があります。
その上で、いよいよヒト臨床試験へのステップに進んでいきます。
末期腎不全患者の透析脱出を想定
現在、再生腎臓で生成された尿中には、健康な尿の3分の1程度の毒素が含まれているそうです。
それでも、人間の場合、本来の10分の1の機能さえ残っていれば、透析治療を免れることができます。
そのため、末期腎不全であっても、理論上は透析治療をやめることが可能になるといえます。
また、さらなる再生腎臓の機能向上も期待できると思われます。
患者由来のiPS細胞から再生腎臓を作るメリット
拒絶反応がない
現在、腎不全になった場合、透析を避ける唯一の方法は、腎移植です。
ただし、他人の腎臓を移植すると、拒絶反応が起こり、免疫抑制剤を一生飲み続ける必要があります。
一方、100%患者のiPS細胞から作成した再生臓器は、患者自身の自己の臓器です。
そのため、人工臓器を患者の体内に戻した場合、拒絶反応のリスクはありません。
患者自身の体細胞から作った腎臓を得られるという点は、この治療法の大きなメリットといえるでしょう。
繰り返し治療できる
再び、治療できる点もメリットです。
腎臓は背中側に位置していますが、腹腔内の特定の部位に移植すれば、移植できる部位は、腹腔内に複数箇所あるため、期待した効果が得られなかった場合や、年数が経ち機能が廃絶された場合、再び治療を行うことができます。
透析をやめることができる
移植した再生腎臓がどのくらいの期間、機能を維持できるのかという点については、現在はまだ分かりません。
しかしながら、再生腎臓の移植により1年や2年といった短期でも透析治療をやめられるのであれば、患者さんのQOL(生活の質)や心の状態は非常によくなると思われます。
産業化に向けて
バイオス株式会社
バイオス株式会社は、腎臓再生の産業化を実現するために設立された再生医療ベンチャーです。腎不全で苦しむ患者に貢献すべく、将来の産業化に向け積極的に活動しています。
世界トップクラスのアカデミアチーム
- ヒト腎臓再生医療技術の横尾隆教授(東京慈恵会医科大学)
- 異種間移植ドナーモデル作成技術の長嶋比呂志教授(明治大学)
- マイクロサージャリー技術の小林英司教授(慶應義塾大学)
- 動物再生医療の米澤智洋准教授(東京大学)
腎臓再生医療の鍵となる特許技術の保有
既に動物レベルで検証された、東京慈恵会医科大学の横尾隆教授が開発し特許出願している腎臓再生医療に関する特許である「移植用臓器及び臓器構造体(特願2014-257957)」およびその海外出願特許(PCT/JP2015/084216)を、バイオスが取得し保有しています。
(バイオス株式会社を参考にしました)
最後に著者の思い
完治できない病気になってしまった時、絶望的な気持ちになります。
受け入れて、前を向くまでに、時間が必要でしょう。
それでも、病気とうまく付き合いながら、幸せな日々を送ることは、十分に可能です。
そして、何より信じていたいことは、私たちが思っている以上に、医学が進歩するスピードは早いということ。
世界では、すでに多くの再生医療等製品が上市されています。
日本においても世界に大きく出遅れながらも、4つの再生医療等製品が上市されています。
参考までに、ご紹介します。
- ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング:患者の細胞を培養して、患者本人に移植する「自家移植」による根治治療を開発しています。すでに、自家培養表皮と自家培養軟骨の2つが、国内で実際に適用されています。
- テルモ:世界初の心不全を治療するための再生医療等製品「ハートシート」を販売しています。ハートシートは、患者の細胞を培養してシート状に調製し、患者本人の心臓表面に移植する製品です。
- JCRファーマ:健康な人の細胞を培養した日本初の他家由来の再生医療等製品を発売しています。通常の医薬品と同様に、幅広い患者に投与できるという点で画期的です。急性GVHDの治療を対象としています。
医療分野は、国の重要な成長戦略として、これまでも政府主導で法令整備などが進められてきました。
あくまで、個人的な見解ではありますが、私は、そう遠くない将来、再生腎臓が実際に患者に適応され、いつかは、腎臓の機能を回復させることができる治療が開発されると信じています。
この記事について、各種公的情報を元に事実関係について精査しながら執筆しました。
しかしながら、絶対的に正しい情報であることを保証するものではなく、著者は、この記事についての一切の責任を負いません。
情報の活用については、読者様、ご自身の責任の元でよろしくお願いします。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。