目次
全身性エリテマトーデス(SLE)とは
全身性エリテマトーデスは、英語でsystemic lupus erythematosusといい、その頭文字をとってSLEと略して呼ばれます。
簡単にいうと、自分の免疫が自分の全身を攻撃する病気です。
それにより、発熱や全身の倦怠感などの炎症や、関節痛、皮膚症状のほか、腎臓や肺、心臓や中枢神経などの内臓の様々な症状が引き起こります。
その原因は、今のところわかっていません。
SLEの患者数
日本では約6~10万人程
日本全国に約6~10万人程度の患者がいるそうです。
2013年にSLEとして難病の申請をしている方は61,528人ですが、申請をしていない人などを含めると、この2倍位の人がこの病気をもっていると推定されています。
有色人種に多い傾向
アメリカ合衆国での調査によると、SLEは、白色人種には比較的少なく、アフリカ系アメリカ人などの有色人種に多いといわれています。
日本においては、地域差などは見られません。
また、輸血によって病気が起こったという報告もなく、特別な環境が病気の発症に関係しているという証拠は見つかっていません。
男女比
平均すると男女比は1:9ほどで、圧倒的に女性に多い病気です。
発症年齢
すべての年齢に発症します。子供を産むことの出来る年齢、特に20-40歳の女性に多いとされています。最近、発症年齢がやや高齢化してきています。
SLEの原因
残念ながら今のところはSLEの原因は分かっていません。
自分自身の体を、免疫系が攻撃してしまう病気であることは分かっています。
本来なら、細菌やウイルスなどから自分自身を守っている「免疫系」が、自分の体を攻撃するようになり、全身にさまざまな炎症を引き起こしています。
誘因
何かのきっかけによって、病気が起こったり、あるいは病状が悪化したりすることがあります。そのきっかけになるもの(誘因)がいくつか知られています。
- 紫外線(海水浴、日光浴、スキーなど)
- 風邪などのウイルス感染、
- 怪我、外科手術、妊娠・出産、
- ある種の薬剤などが知られています。
SLEか判断するには
SLEであるかどうかは、血液中の抗体を調べることによって判断できます。
SLEの患者はほぼ全員(98-99%)が、血液中に抗核抗体という自己抗体をもっています。自分自身の細胞の中にある核の成分と反応してしまう抗体です。
この抗核抗体が、自分の細胞の核の物質と反応し、免疫複合体を作って、全身の皮膚、関節、血管、腎臓などに沈着して病気が引き起こされるのが主な病態と考えられています。
このほか、免疫を司るリンパ球が直接、自分の細胞、組織を攻撃することもあると考えられています。
SLEは遺伝するのか
子供の発症頻度
「SLEの母親からどの程度の確率で子供に遺伝するのか」、正確なエビデンスはないそうです。しかし、その頻度は低いながらも一般の人の発症頻度よりも高いと考えられています。
遺伝病ではなく環境要因も発症の要素に
遺伝子が同じと考えられる一卵性双生児では、25-60%程度の割合でSLEが発症するとのことです。つまり同じ遺伝子を持つ一卵性双生児であっても、100%必ず発病するわけではなく、SLEはいわゆる遺伝病ではありません。
すなわち、残りの40-75%は、何らかの環境要因や偶然の要素が考えられています。
ただし、SLEはいわゆる遺伝病ではないものの、自分自身の体に対する免疫が起こる病気(膠原病や自己免疫疾患)が、頻発する家系があり、関連する遺伝子の研究が進められています。
SLEに関連する遺伝子も分かりつつある
最近の研究では、SLEには50以上の遺伝子が関与していることが分かってきつつあります。
SLEの症状
SLEの症状は、患者によって大きく異なります。全身症状、皮膚や関節症状だけの軽症の患者から、臓器障害や中枢神経にまで障害が現れる重症の方もいらっしゃいます。
- 軽度:皮膚症状など臓器障害なし
- 中度:ループス腎炎などの臓器障害あり
- 重度:中枢神経ループス
軽症なものから重症なものまで
- 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振など
- 関節症状:手や指が腫れて痛い関節炎が起こります。日によって場所が変わる移動性の関節炎が見られることもあります。
- 皮膚症状:頬に出来る赤い発疹で、蝶が羽を広げている形をしているので、蝶型紅斑(バタフライ・ラッシュ)が代表的です。 皮膚をさわると、発疹が重なりあい、少し盛り上がっているのが特徴です。
- 日光過敏症
- 口内炎
- 脱毛
- 臓器障害
臓器障害
全く臓器障害のない、軽症の人もいます。臓器障害がある場合もすべての症状が起こるわけではなく、一人一人によって、出てくる症状、障害される臓器の数が違います。
ただし、以下の臓器障害などは生命に関わる重要な障害になることがありますから、きちんとした診断と治療が必要です。
- 腎臓(ループス腎炎と呼ばれることがあります)
- 神経精神症状
- 心病変
- 肺病変
- 消化器病変
- 血液異常
>ループス腎炎について詳しくはコチラ>
◯腎生検◯どんな時に必要か・腎生検前日レポ・腎生検当日レポ ◯
関連サイト:塩分2gで楽しむ外食
SLEの治療法
急性期には、即効性があるステロイドの大量投与がされ、免疫抑制剤を併用しながら、ステロイドの量を減らしていくことが、最近の一般的な治療方針です。
副腎皮質ステロイド
自分自身に対する免疫を抑えるために使用される「副腎皮質ステロイド」は、自己免疫疾患にはならない薬です。
病気の重症度によって、治療に必要とされる薬の量が違います。
ステロイドは、腎臓の上にある副腎皮質という場所から出ているホルモンを化学的に作ったもので、代表的なものはプレドニゾロンです。
一般的に、
- 重症の方(急性期)では、入院して一日60-80mg(体重1kgあたり1mg程度)を大量が行われます。最初 2週間から一ヵ月この量を続け、徐々に減らして5-10mg前後を維持療法として長期に飲み続けることが多いです。
- 軽症の人では15mg程度で十分である場合もあります。
一日5mg相当のホルモンが体内から出ていますので、5mgのプレドニゾロンを飲むということは、自分自身が毎日作っている量と同じ量を補うことになります。
ステロイドパルス療法
副腎皮質ステロイドを、点滴で大量に使用する方法です。
口から飲むよりより早く、かつ効果も高いとされており、重症度がより高い場合に行われます。
>ステロイドについて詳しくはコチラ>
免疫抑制薬
副腎皮質ステロイドが効果不十分か、副作用が強い場合に、免疫抑制薬を使うことがあります。一般的に、臓器障害がある場合には、ステロイドと合わせて、免疫抑制剤を併用することが多いです。
- アザチオプリン(商品名イムラン、アザニンなど)
- シクロフォスファミド(エンドキサンなど)
- タクロリムス(プログラフ)
- サイクロスポリンA(ネオーラル)
- ミゾリビン(ブレジニン)
- ミコフェノール酸モフェチル(セルセプト)→詳しくはコチラ標準治療と副作用・血中濃度と維持量の決め方
- ヒドロキシクロロキン(プラケニル)→詳しくはコチラ標準治療と副作用・続く眼の違和感・主治医の話メモ
ループス・合併症への対応
抗凝固療法
血栓を作りやすい抗リン脂質抗体症候群を合併している方では、小児用バッファリン、ワーファリンなどによって、血栓の予防が行われます。
支持療法、対症療法
腎不全のときの透析療法など、その病状に合わせて治療が行われます。また血行障害の強い方では、血管拡張薬などが使われます。
SLEの経過・予後
病型、重症度により異なる
臓器障害の広がりや重さによって、病気の重症度が異なります。
関節炎や皮膚症状だけの人は、薬剤によるコントロールが容易で、健康な方とほとんど変わらない普通の生活が出来ることが期待されます。
一方、腎臓障害、中枢神経病変、心臓病変、肺病変、血管炎などの臓器障害がある場合には、多種類の薬剤を大量に長期にわたって使わなければならないことがあります。
薬の長期使用への対策も重要
SLEの病気のコントロールは年々改善され、SLEとうまく付き合いながら、数十年も生きている人が多くいます。
そのため、高齢化に伴って起こってくる生活習慣病(動脈硬化、糖尿病、高血圧など)などに対する対策も必要です。
(私の主治医は、「一般的な人と変わらない寿命を全うできる。だからこそステロイドなどの長期服薬に対する副作用予防が大切」だと言っていました。)
また、ステロイドや免疫抑制剤により「自分自身の免疫力を下げる」ことで治療を行うため、感染症にかかりやすくなります。通常であれば感染するはずもない弱い感染症にかかってしまったり、風邪を引いた場合には重症化することもあります。そのため、手洗い・うがい・マスクと言った感染症対策も重要です。
薬剤反応性・予後
ステロイドができて以降、自己免疫疾患のコントロールは飛躍的に進歩しました。
ステロイドがなかった1950年頃には、SLEを発症して5年以上生きることができる確率は50%程度でしたが、現在では95%以上にまで改善しています。
近年は、免疫抑制薬が使われるようになって、病気のコントロールはさらに良好になってきています。
●薬●
>>ステロイド(プレドニン・プレドニゾロン)
>>セルセプト(ミコフェノール酸モフェチル)
>プラケニル(ヒドロキサンクロロキン)
◯ 標準治療と副作用 ◯
●腎臓●
◯ ループス腎炎の標準治療・
◯腎生検◯ どんな時に必要か・腎生検前日レポ・腎生検当日レポ ◯
◯食事療法◯ 慢性腎臓病G3b:食事療法・塩分制限・たんぱく質制限 ◯
関連サイト:塩分2gで楽しむ外食
●最新の研究成果●